hamurabiou’s diary

主に航空トリビアや時事的な航空ニュースについて掘り下げます

737MAXの欠陥と動向

現在、737MAXが世界的に運航停止状態に陥っています。これは、連続する2つの航空事故の影響です。運航停止となった時は多くの新聞、テレビなどのメディアで報道されましたが、現在となっては報道はほぼ皆無です。

 みなさんは僕のような限界航空オタクではないでしょうし、現状についてあまり知らない方も多いと思います。なので、今回は737MAXのこれまでと現状、これからについて書いていきたいと思います。ちょっと難しい単語が出てくるかもしれません。

 運航停止までの流れ

 初飛行、商用運用スタート

 737MAXは在来型の737NG(Next Generation)を置き換える目的で開発されました。

新開発のエンジン、多くの新技術を盛り込んだ最新のボーイング旅客機である787の技術を盛り込んだ第四世代小型旅客機として2015年12月8日にローンチ。

そして一ヶ月ほど後の2016年1月29日に初飛行しました。

各種試験を終え、2017年5月22日にライオンエアの傘下にあるマリンドエアで初就航。その後もサウスウェスト航空、アメリカン航空ユナイテッド航空、ライアンエア、エチオピア航空ノルウェーエアシャトルなどの大企業で運用が開始されます。

日本への就航はシルクエアーが広島にシンガポール線を開設したことに始まります。

日本ではANAが2021年に導入する予定となり、スカイマークも後継機の候補として737MAXを挙げています。

 

Boeing 737 MAX 7 at BFI (N7202U)

ライオン・エア610便墜落事故

初飛行から2年半経過した2018年8月13日、一つ目の墜落が起きてしまった。

事故機は飛行時間800時間程度の新造機。朝、スカルノ・ハッタ国際空港を離陸10分後、AOAセンサー(これについては後述)に異常をきたして墜落した。

Lion Air Boeing 737-8 MAX PK-LQH

AOAセンサーとは?

たいていがコックピットの窓の部分についてます。迎角を測るセンサーのことで、自動操縦での機首上げや機首下げの判断、迎角が高すぎる際には機首下げを行います。ライオンエアの事故ではAOAセンサーの異常によって機体が勝手に「機首が上がっている」と判断したため機体後部の水平尾翼が機首下げの方向に向き、時速800㎞というスピードでの墜落へと至った。この機首の上げ下げを指示するシステムをMCASといい、このシステムはAOAセンサーのデータをもとに機首の自動上げ下げを行う。

エチオピア航空302便墜落事故

 

こちらもライオンエアと同様の水平尾翼の異常。正確にはAOAセンサーの異常が原因となって機首下げが起こり墜落。このとき操縦士はボーイングの公式のMCASのカット手順を行ったが制御を取り戻せず墜落した。

 

以上の2つの事故によって737MAXの安全性に疑問符が打たれ、本格的な調査と運航停止が始まる。

各国での運用停止

1・中国での運航停止(2019.3.11)

Air China B-5693

全世界で初めて運行の停止を指示したのは中国。中国の中国民用航空局は中国大陸内の全航空会社に737MAXの運用を停止させた。同日にインドネシアとモンゴルも運航停止を指示。また、エチオピア航空などの一部の航空会社も会社内での運航を自主的に停止した。

2・乗入禁止空港ができる(2019.3.12)

シンガポールの民間航空局はチャンギ空港への乗り入れを禁止。オーストラリア、マレーシア、オマーン、インドなども同様の決定を行った。これによりシルクエアー(シンガポール)、スパースジェット(インド)、ジェットエアウェイズ(インド)、オマーンエア(オマーン)は事実上の737MAX運航停止となった。

また欧州連合EU)はグリニッジ標準時で同日19時より、EU空域内での同機の運航と空域通過を全面禁止。

3・アメリカ、カナダでの飛行禁止(2019.3.13)

Air Canada Boeing 737-8MAX; C-FSIL@LHR;10.07.2018

残っていた北米の二国も運航と領空内の飛行を禁止。アメリカはドナルド・トランプ大統領の大統領令によって運航を停止した。同日に最後まで残っていたパナマコパ航空も運航を停止。また、アメリカの停止を受ける形で日本なども自国の領空通過を禁止した。

これにより全機が運用停止となったものの、FAA(連邦航空局)は乗客を乗せないフェリーフライトは許可している。そのためサウスウェスト航空はヴィクターヴィルに737MAXをストア(放置)させている。ヴィクターヴィルは航空機の墓場と言われるほど廃飛行機が多く、駐機料も安い。そのため駐機されている。

システムの改修過程

2つの事故で浮き彫りになったのは737MAXのいくつかの欠陥でした。それは

  • AOAセンサーで計測した誤った迎角がMCASに送られた際に、パイロットに通常とは異常な迎角となっているという報告。(迎角不一致警告)
  • パイロットがMCASの行う操縦を破れない。

これらについてボーイング社はソフトウェアの改修を行い、迎角不一致警告に関しては標準装備に、MCASについてはソフトウェアの改修で破れるようにしました。

Mean Muggin

↑737のセンサー(写真はピトー管)

 

まず、迎角不一致警告について。

航空機のコックピットの中央にはMCPとよばれる機体の高度、速度、迎角などを示すパネルがあります。そのMCPの迎角の表記は機体のセンサー(AOAセンサー)で行われます。そして、算出した迎角をMCPに表示します。尚、737MAXでは画面に表示すると同時にMCASにも送信されますが、このときは迎角が本当に異常ではない限り、MCASには送信されるだけで勝手に起動して機体の操縦を勝手に始めることはありません。

しかし、AOAセンサーが異常になったら、誤った迎角の情報をMCPに表示した上、MCASにも誤った迎角の情報を送ってしまいます。MCASは正常に作動しているためMCASはAOAセンサーからの情報によって「機体が危険な姿勢にある」と勘違いしてしまい、それの姿勢を立て直そうと尾翼を動かしてしまいます。

そのAOAセンサーが737MAXでは壊れてしまうことがあるため問題となっています。

 

次にMCASが破れないことについて

MCASとは迎角が危険な数値なら自動で修正するプログラムの事です。修正とは、尾翼の昇降舵を動かして機体の姿勢を立て直します。前述のとおり、737MAXのAOAセンサーが壊れてしまうとMCASに本当の数値とは違う迎角のデータが送られ、正常なのに修正が行われます。

2つの事故はAOAセンサーが機体が上に物凄く傾いていると勘違いして、そのデータをMCASに送ったことによりMCASは機首を下にしようとしたため操縦不能となり墜落しました。尚、MCASは昇降舵を自動で調整することはできますが、スポイラーなどの主翼の動翼を動かすことはできません。そのため、パイロットが機首を上げようとすると主翼の動翼のみは動きましたが、もちろん昇降舵の力に勝てるわけなく墜落しました。

このとき問題となったのはパイロットがMCASを力づくで破れないということ。なので、一度エラーを起こして勝手に操縦を始めると、自動操縦をストップしても勝手に操縦を続けてしまいます。これによって事故が起きたということです。

 

各航空会社の対応

Icelandair Boeing 737 MAX 9; TF-ICA@KEF;31.07.2019

色々な航空会社が737MAXを地上に放置している状態です。サウスウェスト航空などのアメリカの航空会社はモハビなどの砂漠に放置。ヨーロッパ系の航空会社は自国の空港に放置しています。また、ボーイングも製造ラインを停止、エラーの対処を行っていますが、なんせ製造途中の機体が多く、工場の駐車場も使って駐機させています。

昨今の動向

事故からもう1年以上が経ち、テレビのニュースなどでも取り上げられにくくなっているこの話題。昨今も絶えずこの問題について議論されています。

2019.9.23 インドネシアが欠陥を指摘

インドネシアがライオンエアの墜落事故を受けて書いた事故調査報告書より、インドネシアが737MAXの製造上の欠陥を指摘。この原案には100以上の墜落原因が書かれており、近くアメリカの関係者とインドネシア当局が議論する予定。

2019.9.26 777Xでも欠陥が発見される

737MAXで対応に追われるなか、ボーイングの新型大型機の777Xでも欠陥が見つかった。その欠陥とは777Xの荷重試験中に貨物ドアが吹き飛んだというもの。

また、搭載するエンジン、GE9Xでも欠陥が生じて再設計が必要になった。この再設計とは完全な再設計でボーイングはこれを批判。

これらは777Xの生産計画の変更を迫るようなものではないが、737MAXと777Xと2つもの機体で欠陥が見つかるとなると、ボーイングの信頼はどんどん下がるだろう。また、2機ともボーイングの最新機種で、現在となっては安全に飛行できている787でも初期不良が多かったことから「ボーイング製の新型旅客機は不良が多い」というレッテルを貼られかねない。

そのほかにも777Xとは大型旅客機であり、950億ドル以上の注文を獲得しており、運用開始前の旅客機としては史上最大の額の受注がなされている。その機体で不具合となると、これからの売り上げに影響しかねない。

777X

これは自身の意見だが、ボーイングは787の開発を振り返って「新型機開発は新技術の実験場ではない」と言っていたが、その反省はどこに行ったのだろうか。777Xに関しては新技術に起因する事故ではないが、不具合が多すぎる。しかし、737MAXはわざわざ新技術を導入して不具合を起こしている。対してエアバスA350A380の開発にしても既存の技術を応用しているため、不具合が少ない。保守派のエアバスにこれから業界は傾くのではないだろうか。

2019.9.29 737NGでも欠陥が発見される

737MAXではないが、そのもととなっている機体、737NG(Next Generation)で亀裂が発見された。737NGとは737の第3世代の機体で、日本でも日本航空全日本空輸はじめ、スカイマーク、ソラシドエアなどのMCCも導入しているほか、フリートを全て737シリーズのみで揃えているサウスウェスト航空などがあるなか、欠陥が見つかった。

MU B73G B-5816

亀裂がみつかったのは翼と胴体の接合部分で、設計当初から9万回の離着陸に耐えられると発表されていた。

尚、軍用型737NGの米軍哨戒機P-8には影響を全く及ぼしていないと発表している。

2019.10.3 ボーイングエンブラエルとの統合が遅れ

3日、ボーイング社はブラジルのエンブラエルと統合が遅れていると発表。2020年の初めまで統合がずれると発表。この統合は、商用機部門の統合で、これによってエアバスボンバルディアに対抗する予定。

エアバスボーイングの両社はともに100席以下の座席の航空機を開発しておらず、100席以下の範囲もカバーする目的でエアバスボンバルディアと、ボーイングエンブラエルと提携する予定。

エアバスボンバルディアが開発したCシリーズを既に自社のラインナップに加え、A220 という別の名称で販売を行っている。

対してボーイングエンブラエルのE-jetを自社ラインナップに加えて100席以下の航空機の市場に乗り込もうとしているが、737の事故もあり、統合が遅れている。